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「せめて見付からない場所で吸えば?」
ひっつめ髪が横から覗く。煙が飛んで、甘い匂いが濃くなった。
「チクるか止めるかしねぇのかよ」
幹から背中を上げて、残ったタバコを踏み消した。
緑の傘に入り込んだ、山尾の眼鏡が曇る。外すかと思ったけど指で拭った。雨降りの翌日、地面は寝転がるには冷たい。
「毒があるって言ったのに」
「食わなきゃ平気だろ」
馬酔木――アセビまたはアシビ。馬が食うと酔っ払ったみたいになる。鹿が嫌うから、シカクワズの別名もある。
「調べたの?思ったより素直ね、鹿野君」
おかしそうな声。細い手が触った枝から花が散る。白い花はぼんやり光って、並んだ格好が提灯にも似てる。夏祭り、櫓の下の盆踊り。買ってもらえなかった夜店の綿菓子。
「万葉集にも、馬酔木の歌があるわ」
花提灯を撥ねて山尾ごと置き去りにした。
結局こいつは、俺を授業に引っ張り出したいだけだ。絶対その手には乗らないと思った。
ひっつめ髪が横から覗く。煙が飛んで、甘い匂いが濃くなった。
「チクるか止めるかしねぇのかよ」
幹から背中を上げて、残ったタバコを踏み消した。
緑の傘に入り込んだ、山尾の眼鏡が曇る。外すかと思ったけど指で拭った。雨降りの翌日、地面は寝転がるには冷たい。
「毒があるって言ったのに」
「食わなきゃ平気だろ」
馬酔木――アセビまたはアシビ。馬が食うと酔っ払ったみたいになる。鹿が嫌うから、シカクワズの別名もある。
「調べたの?思ったより素直ね、鹿野君」
おかしそうな声。細い手が触った枝から花が散る。白い花はぼんやり光って、並んだ格好が提灯にも似てる。夏祭り、櫓の下の盆踊り。買ってもらえなかった夜店の綿菓子。
「万葉集にも、馬酔木の歌があるわ」
花提灯を撥ねて山尾ごと置き去りにした。
結局こいつは、俺を授業に引っ張り出したいだけだ。絶対その手には乗らないと思った。
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公開:20/06/17 23:27
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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