酔篝(よいかがり)-1

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寝転がって手を伸ばす。校庭の隅、傘みたいに被さった枝に鈴生りの花。白い葡萄の粒々に見えて、匂いが甘くて美味そうだった。
「その花、毒があるわよ」
ぎょっとして跳ね起きる。カッターシャツに灰が散った。
「あと、タバコも身体に毒よ」
野暮ったい眼鏡にひっつめの髪、絵に描いたみたいな先公。
笑って通り過ぎた声はハスキーだった。転校初日、サボってタバコ吹かしてた俺も俺だけど、先公のくせに止めもしなかった。一杯食わされた気分で、また花の影に寝そべった。
中毒になったって構うもんか。そのまま午後まで昼寝して、生活指導に見付かった。
「三時間の遅刻ね、鹿野君」
連れてかれた教室で、出席簿にチェック入れながら言った。
「担任の山尾です、初めまして。教科は古文」
眼鏡の奥は、反吐が出そうに見飽きた大人の目だった。
馬酔木――アセビまたはアシビ。
お互いの名前を知った日、あの花の名前を、まだ俺は知らなかった。
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公開:20/06/17 23:15

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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