おかえり扇風機

11
11

「おーい、見てみろ。綺麗だぞ」
お父さんが庭で呼んでる。
「うわぁ」
空全体が濃いピンク色に染まっていた。夕焼け空の向こうから、寝ぐらに帰るのかな? 鳥の大群が飛んできた。
「おや、帰ってきたな」
お父さんが嬉しそうに目を細める。ブルンブルンと音がした。あれれ? 鳥じゃない、扇風機だ。扇風機が綺麗に列をなしてこっちに向かってくる。
僕は急いで2階に駆け上がり、部屋の窓を開けた。と、同時に扇風機が窓から勢いよく飛び込んできた。
扇風機は2〜3回部屋を旋回してからゆっくりと降り立ち羽を休めると、懐かしむようにぐるりと首を回した。
「お帰り! 僕の扇風機」
昨年の夏の終わり、暑い国を目指して僕の部屋から飛び立った扇風機。どこの国で誰に風を送っていたのかな。
顔を近づけると、潮の匂いとココナッツの甘い香りがプーンと鼻を掠めた。
まずはピカピカに拭いてやらなくちゃ。この夏もよろしくね。僕の扇風機。
その他
公開:20/06/16 18:58
さよなら扇風機 渡辺さんリク

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容