ソフィアのち雨

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梅雨の晴れ間が嬉しくて、私は荒川の土手でおはぎを食べていた。
すると河川敷を老婆が巨大なバイソンを連れてやってくる。
「お散歩ですか」
声をかけると老婆は微笑んで、
「晩のおかずよ」
と言った。
私は衝撃で動けなくなった。老婆とバイソンはゆっくりと私の前を過ぎてゆく。
「あのう」
私は何か聞かなくてはいけない気がして老婆を呼び止めた。
「名前はあるんですか」
「私はソフィア。この仔はニック」
胸のざわめきが止まらない。
私はあとを追った。
「この仔の母は飛騨牛で、父親はアメリカバイソンなの。そういうことが沢山あった。わかるでしょ」
ソフィアの言葉に私は息をのんだ。わからない。でももう追いかけてはいけない気がした。
川岸には両国の軍人が最敬礼で待機していて、ソフィアとニックを筏に導く。
「色々あった。アメリカさんとは」
ソフィアは私に微笑み、それで筏は岸を離れていった。
明日はまた雨になる。
公開:20/06/16 13:49

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