0
3

「俺なんかが生きてても……」
男は深いため息をついた。自分には何の取り柄もないと苦悩した末、自らの命を絶つことに決めた。

ただ、無駄死にだけはしたくない。そう思い、自身の身体を人里離れた場所に埋めることに。深い深い穴を掘り、そこで息絶えれば――はるか遠い未来で化石となって発見されるだろう。
旧時代の人間の化石となれば世界も放っておかない。世に認められぬまま死んで行った芸術家のように、死して世界から注目を集めるのも悪くない。男はニヤリと笑い、穴を掘る手に力を込めた。

「珍しいものが発見されたぞ!」
僻地に化石が見つかったと未来では大騒ぎ。学者たちが寄ってたかって研究を続けた。どうやらそれは、自殺した旧時代の人間のものらしい。

「こんな貴重なものにお目にかかれるとはね」
人々は興奮した。
「それにしても自殺だなんて」
「不老不死を手に入れた人類からすると、自殺なんて考えられないからなぁ」
SF
公開:20/06/14 16:52
化石

ときわひでたか(常盤 英孝)( 大阪 )

《3分後にはもう、別世界。》
ショートショートを執筆する、超短編小説家。

ショートショートの魅力である驚き・衝撃・裏切り・どんでん返しの展開を楽しんでいただければ幸いです。

★Amazon Kindleで『妄想するショートショート』販売中!
https://www.amazon.co.jp/dp/B07WPH1CDH?tag=naniwayorozu-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

◇ショートショート作品は小説投稿サイト『エブリスタ』で発表しています。
https://estar.jp/users/155269596

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容