終わりの季節

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 彼女は僕より10歳年上の既婚者だった。僕の働く花屋のお客さんだった。花の話や世間話、音楽の話で僕達は意気投合した。

 僕達は簡単に恋に落ちた。彼女はいろいろ話してくれた。結婚7年目だということ。旦那さんがいつも帰りが遅い職種だということ。不妊治療でクリニックに通っているけどなかなかうまくいかないっていうこと。

「子ども、できたの」

 年が明けて桜の季節に彼女は言った。

「えっ、そうなんだ。おめでとう。不妊治療頑張ってたもんね」
「うん、ありがとう。孝史くんとは……」
「わかってるよ。もう終わりにしよう。いままでありがとう」
「ありがとう。好きだったよ」
「僕も」
「孝史くんってA型だよね」
「え? ああ、うん、そうだよ」
「よかった」
「え?」
「あ、こっちの話」

 もう、遠い昔の話だ。いま僕は考える。もしかしたら僕が残したのかもしれない存在を。種子としての僕の役割を。
その他
公開:20/06/15 15:20
更新:20/06/15 17:15

千億アルマ( Tokyo, Japan )

Senoku ALMA
https://note.com/shiro_mid

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