おばあちゃんのおにぎり

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学校帰りにおじいちゃんのお見舞いに行った。お母さんはおじいちゃんと折り合いが悪く、病院には行かないからいつも私がお見舞いに行く。
「おじいちゃん、来たよ」
「おお、咲良か」
おじいちゃんがベッドに横たわったまま嬉しそうに笑った。
「あれ、何かいいことあった?」
おじいちゃんはふふと笑う。
「実はばあさんが来ての」
私は椅子に座る。
「にぎりめし持ってきてくれたんよ。わしはばあさんのにぎりめしが一番好きなんじゃ」
「そうだったね」
おじいちゃんは認知症だ。おばあちゃんは一年前に亡くなってしまったのにたまにこんなことを言いだす。
「また明日も来るゆうてたけえ、楽しみじゃのう」

 おじいちゃんはその後すぐ亡くなった。家に帰ってきたおじいちゃんは安らかな顔をしていた。
台所に行くとお母さんが泣きながらおにぎりを作っていた。私はハッと気づいた。これは明日おじいちゃんに渡す筈だったおにぎりなのだと。
その他
公開:20/06/15 11:35
更新:20/06/23 18:02

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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