空耳

妻が空耳なる野菜の種を庭に蒔いた。
数日後、目が出た。ぱっちり二重が印象的で羨ましい。
目が出たかと思うと今度は歯が生えた。虫歯にならないよう毎日磨いてやった。
大きく蔓を伸ばした空耳はついに実をつけた。枝一杯に耳がくっついている。
妻は耳に手を伸ばすとそれを引き千切る。思わず自分の耳を押さえてしまった。
そんな私を見て妻はくすくすと笑っている。
耳をパカッと割ると中からそら豆のような物が出て来た。中身は普通なんだな…ホッとした。
その日は夕食に空耳のスープとサラダが出た。
恐る恐る口にしたそれらは悪くなかった。空の様にす～っと澄み渡る後味が癖になる。
見た目は不気味だが味は抜群だ。
翌日、空耳を見てみると鼻が咲いていた。花粉症なのか真っ赤で辛そうだ。小さくくしゃみも聞こえる。
妻は空耳を引っこ抜いた。真っ黒な根っこが私の毛根に見えて哀愁を感じる。
空耳は口が出たら、くちはてる合図らしい。