親父ドライブ

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「あー、ガソリンがやばい。もっと歌ってくれー」

懐かしい。まさか俺がさ、あの頃の親父と同じこと口にしてるよ。二人の息子だって、はじめは恥ずかしがってたくせに最後には熱唱。しかも調子っぱずれ。それも同じ。笑っちゃう。

幼い頃、車で遠出すると決まって親父が言い出すんだ。ガス欠した車は、歌で何キロか走る。でもうちのはステレオ壊れてっから、自分たちで歌うしかない、って。

エアコンだって効きやしない。窓を全開にすると、エンジンもカラカラと変な音を立てるから、俺たち兄弟の歌声にも自然と力が入った。親父は聴いて笑うだけ。走るにはお前らので充分さ、なんて。

「次はパパも歌ってよー」

父親にはなったけど、やっぱり同じじゃない。俺は歌った。まったく。子供だけで充分だってのに。

ふわり。車が宙に浮かぶ。息子たちの歓声が上がる。エンプティランプが灯る。あと少しだ。大笑いしながら、俺たちは歌い続ける。
ファンタジー
公開:20/06/12 22:01

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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