美しいチャイム

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疲れ果てていた。
痴呆症の妻との毎日に。
人生が180度変わった。
妻から元気と満面な笑みが消えた。

苦労ばかりかけてきた。
自由に生きすぎた。
浮気もした。
子育ては任せっきりだった。
彼女への感謝を忘れた。
面倒見てるようで、見てもらっていた。
そんな彼女の気遣いを、優しさを当たり前だとおもっていた。

仕事ばかり、家庭は顧みず自由に生き、3人の子供は彼女任せ、仕事とゴルフ三昧の日々。
そんな自分勝手に生きてきた代償。

「和樹、ご飯食べたの?」私を見ながら、長男の名前を呼ぶ。
胸が詰まる。毎日が苦しかった。

朝起きたら彼女は家に居なかった。
また近所を徘徊してるのだろう。
いつも、私が見つけ連れ戻す。
「30年間、家族の為に尽くしてくれて、ありがとう。」
昨日の夜、そう彼女に語りかけた。
チャイムが鳴った。妻がいた。
「和幸さん。ありがと。」
妻は私の名を呼び、にっこり笑った。
その他
公開:20/06/12 21:59

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

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