異空間バケツ

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よく土砂降りの雨を「バケツを引っくり返したような雨」という。
あれは、上空にある異空間のバケツが幾つも引っくり返った状態になっていて、大量の水が地上に雨となって降り注いでいるためだ。最近は特に酷くて「ゲリラ豪雨」とも呼ばれている。
昔々あるところに、長期間にわたって強い雨が降り続き、洪水被害の絶えない集落があった。
梅雨の季節ということもあり、その日も激しい雨が降ってきた。みるみるうちに付近を流れる川の水嵩は増え、今にも氾濫しようとしていた。
すると、旅をしながら修行に励んでいるという一人の僧が集落を訪れた。
その僧は、異空間をも見通す千里眼の持ち主で、引っくり返ったバケツを念力で次々と元に戻し始めた。
次第に雨脚は弱まり、最後のバケツを元に戻すと雨は完全に降り止み、集落には綺麗な虹が架かったという。
この人物は、畿内一円に堤防を築いたとされる奈良時代の高僧、行基と集落では伝承されている。
その他
公開:20/06/12 19:36
スクーのお題 異空間バケツ 土砂降り バケツ ゲリラ豪雨 洪水 梅雨 氾濫 集落 行基

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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