八月の向日葵

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ああ、まただ。
君が僕の名前を呼ぶ声に、まわりの人が振り返る。でも君は構わず顔いっぱいで笑うんだ。八月の向日葵みたいに。

君は僕の手をつかんで尋ねる。
「ねえ、どこに行く?」
いつも僕は、どこでもいいよとしか言えなくて。
馬鹿だな。
何で君の喜びそうな場所のひとつも探さなかったのだろう。
一度だって、人が振り向くぐらいの大声で、君の名前を呼んだだろうか。
一度だって、君の手を自ら包んだだろうか。

「つまんない。私のこと、全然好きじゃないみたい」

そう言い残して、君は僕の前から消えた。
その時も、僕は何も言えなかった。
君が嫌なら仕方がない。そう思うことで逃げていた。
それは君からの最後のチャンスだったのに。
でも僕ときたら何の言葉も浮かばなくて。
ああ、ならばせめて手を伸ばして、君の手をしっかり握ればよかったのか。

遠い昔の夏。
今でも僕は思い出すんだ。
八月の向日葵を見るたびに。
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公開:20/06/12 19:08
言葉にするのは大切なこと

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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