お風呂場のラッコ。

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 昨日、三年付き合っている恋人にこう言われた。
 「パリに行くことになった。一緒についてきて欲しい」



 「どうしよ」
 呟いたはずの言葉が、浴室中に響き渡って、なんだか哀しくなった。

 ふと、湯船を見ると、そこにはラッコ。
 え、疲れすぎて幻でも見ちゃってる?
 そう思い、目を擦るが、ラッコは目の前にいる。
 不意にラッコは私の手を握り、そして、グッと私を引っ張って…。

 バシャンッ。


 恐る恐る目を開けると、そこには“道”。だけど、その道は“わかれ道”。
 「どうするべき?」
 呟いたとき、ラッコに足を叩かれた。
 ラッコを見る。ラッコは、耳に手を当てる仕草をした。
 真似してみる。すると、左の道のほうから、声が聞こえた。

 「君と一緒にいたい」



 気がつくと、いつものお風呂場。もちろん、ラッコもいない。
 だけど、“道”は決まった。
 「私もあなたと一緒にいたい」
その他
公開:20/06/11 22:27
更新:20/06/24 22:01
お風呂場のラッコ 海のお友だちシリーズ

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人1年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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