四百字怪談【冷たいベンチ】

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 ある夏の夜。飲み会の帰り道だった。おれは、ふらふらと公園にあるベンチに座った。
 ひんやり冷たい。
 蒸し暑いさなか、そのベンチは異様に冷たかった。
 心地よさに、そのまま横になって眠ってしまった。
 どれくらいたったのか、ベンチの背もたれの向こうから、

 ちりん、ちりん、ちりん……

 と、鈴の音が地面を這うように、近づいてくる。
 怖い。
 体が重く身動きができない。
 鈴の音が止んだ。
 日本髪を結った着物姿の女が、上から覗いている。血の気のない真っ白な顔。髪に刺したカンザシの鈴が揺れていた。
「つれてって……」
 おれは首を横に振ると、瞳のない目を剥き、大きな口を開けた。
 歯がぼろぼろ抜け落ちて、ベンチに転がった。

 生温かい芝生の上だった。傍のベンチから落ちて目が覚めたのだ。まだ深夜で、おれは逃げるように公園を出た。

 朝。枕元にあった歯の欠けらを窓から投げつけた。
ホラー
公開:20/06/10 12:46
更新:20/06/11 17:59
スクー 温度のあるベンチ 怪談

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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