ある放火魔の手記

8
11

私は皆の模範解答でした。あの頃それが自分だと信じて疑いませんでした。今思えばあれは私ではなかったのです。私の裏っかわで私は土の中にいました。まだ芽生えてもいなかった。自分を装う誰かに全てを乗っ取られていたのです。それはきっと父や母、担任の先生や刷り込まれた道徳や正義というものだと思われます。
ある日、数学の授業で、問題が解けなくて苦しみました。私に解けないはずはないのに。解答したプリントを先生に持っていくと、先生は「君は数学は諦めなさい。諦めも肝心。」と酷く冷徹に私を突き放しました。その時、私の頭にひびが入ってきて、それからそれは治ることはありませんでした。後に続く学友は、トントン拍子でプリントに花丸を貰っていきます。私は大きく赤でペケをされたプリントを母に見つからないように深夜こっそりライターで火をつけて燃やしました。美しかった。その時でした。私が生まれたのは。私が私を知ったのは。
その他
公開:20/06/09 16:19

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容