遠くで花火の音がする

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 湿気た空気が熱を孕む。皮膚を侵食するようなその熱気に、からころ響く下駄の音が融けていく。橙を灯した明かり。赤に黄色に鮮やかな屋台。頬に薄ら赤みを差しながら、いつもよりも広いその背中を追う。
 世界の賑やかをきゅっとひと区画に閉じ込めたような、随分と明るい夜だった。
 金魚の尾のように、帯の端が足下を駆け抜ける。楽しそうな笑い声、じゃれ合う子どもたち。彼ら彼女らよりも背の高いはずなのに、一歩一歩が覚束ないのは歩き慣れない履き物のせいか。
 足を止める。音が止まる。彼が振り向く。同じように顔を赤くして、夜の灯火に参ったように目を細めて笑う。「ちょっと休もうか」
 この世の中に『ちょっと休む』なんて素敵な時間が、どのくらいあるのだろうか。いつもよりも特別な響きを持つその言葉に、私は素直に首を縦に振る。参るくらいの華美な世界でよかった。極彩色の夜の中、私たちは褪めた世界を探して歩く。
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公開:20/06/10 00:11
更新:20/06/11 02:22

chaccororo

めっちゃトイレ行きたい時間と、そうでもない時間を行き来してます。

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