温もり

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気がつくと、僕は夜の住宅街を歩いていた。
一週間前に父さんが死んでから度々同じことがあった。
早く帰らないと母さんが心配する。
戻ろうとしたその時、公園が視界に入った。
そういえば父さんはあそこのベンチに座ってよく物思いに耽っていたっけ。
僕は謎の引力によって、その木製のベンチに引き寄せられていった。
父さんはこの上でどんな景色を見て、何を考えていたのだろうか。
知りたくなった僕はベンチに座った。
すると、お尻に温かさを感じた。
さっきまで誰かが座っていたようなかすかな温もり。
まさか父さん?
僕は嬉しさと同時にあることを思った。
僕のせいで成仏できていないのか。
申し訳ない。
素直にそう思った。
「父さん、僕は大丈夫だよ」
そう呟くと、本当に大丈夫な気がしてきた。
「それじゃあね」
もう少しそこにいたかった気持ちを抑え、僕は立ち上がり帰途についた。
その足取りはいつもより軽かった。
その他
公開:20/06/09 23:40
スクー 温度のあるベンチ

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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