自販機からの、魔法のランプ

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その自販機は、踏み切り近くにある。毎日、何千人という通勤客を見守り、手をあげてわたる保育園児と少し疲れた母親を励ますように光っている。
保育園児は、母親にオレンジがいいとまた駄々をこねる。いい加減母親も買ってあげればいいのだけれど、今日も父親が帰ってきて早く食事を出せとうるさいから苛立っているように見える。でも、今日の母親は何だか少しばかり機嫌が良さそうだ。
「なによ、オレンジでいいの?」
「やったぁ!ママ買ってくれるの!」
母親にも、保育園児にもわたしはご褒美があげたくなった。なぜだろう。こんな気持ちになるのは、1万年と数百年ぶりだ。
自販機からは、とても古びたランプが出てくる。母親は苛立ちながら蓋を開ける。
「あなたの願い事をひとつかなえてさしあげます」

「オレンジジュースを早く出しなさいよっ!」
保育園児は、これまで見たことのないほどの目映い笑顔を見せた。
SF
公開:20/06/08 20:54
更新:20/09/22 15:24

きろひの、えう

ぼそぼそと創作話を書いています。

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