火桜

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夏にしか咲かない桜がある。人はそれを火桜と呼んだ。花びらは火の粉でできているが、幹や枝には燃え移ることはなく、その輝きだけが揺らめいている。
しかしこの火桜、近くで見ることはできない。風に吹かれると火の粉が辺りに舞ってしまうからだ。その為、学者でさえもこの奇妙な桜の生態を調べる事は出来なかった。
夏になると、人々は遠くからその桜を見る。特に夜の火桜は、見る人を熱狂と静寂に包み込んだ。
その群衆の中で1人、火桜の美しさの虜になった男がいた。その男は火桜を間近で見たいと、周りの静止を振り切りどんどん火桜に近づいていく。花びらに手を触れようとしたその時、男は燃え盛る炎に包まれてしまった。

刹那的な感情か、あるいは夏という季節がそうさせるのか。
火桜の花びらは、その美しさに魅せられた人々の欲望から出来ている。
ファンタジー
公開:20/06/08 14:44
更新:20/06/08 19:48

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