思い出の向こう側

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 私は思い出す。必要になったら思い出す、思い出したら「会える」と言った「彼」のことを。ドアを開ければ記憶と変わらぬ「彼」が振り向く。
「返して欲しいの」
「なるほど。その時が来たということか」
「彼」は、引き出しからケースを取り出し蓋を開ける。たくさんの鍵が並んでいる。
 私の鍵は、ああ、これだ。
「ありがとう、返してもらうわ」
「どういたしまして」優雅に「彼」は一礼し、向こう側の扉を指し示す。
 私は扉に鍵を差し込む。開く。
 あの人の後ろ姿があった。これは、遠く、淡い初恋。色あせることを封じた過去。あの人が振り向く。
 大切な思い出を取り戻し、私は安らかに「死」へ向かうことができる。
ファンタジー
公開:20/06/07 20:05

海月漂( にほん )

思いつきを文章にするのが好きです。
怪奇からユーモアまで節操無く書いていきたいです。
少しでも楽しんでいただけますように。

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