空耳

ダイエット中の私に悪魔が囁きかける。
『このケーキ、滅茶苦茶美味いぞ～』
これは私の弱い心が生んだ幻聴だ。耳を貸すわけにはいかない。
『焼肉最高！ご飯が進む！』
無視だ無視。今年こそ絶対に痩せてやるんだ！
私は鋼の意志で悪魔の誘惑を振り切った。

数週間後、悪魔が目の前に現れた。
『ほら見てよ、このスイーツ。凄く美味しそうでしょ？いや、実際これが美味いんだ』
まるでグルメリポーターの様に私にスイーツを向けてくる。
『これ、一人で食べちゃおっかな～』
空耳とばかり思っていた悪魔の誘惑が本物だったとは驚きだ。
だったら尚更、負けるわけにはいかない。私は口の端から涎を垂らしながらも悪魔の誘惑を必死に拒んだ。

数か月後、ダイエットに成功した私に悪魔が頭を下げてきた。
『ダイエット方法、教えてください』
何があったんだろう？
『今、職場で「デビルじゃなくてデブルだ」って皆に馬鹿にされてるんです…』