立方体書店

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書店「立方体」に入る。棚に整然と一辺二十五センチメートルの立方体が並ぶ。順に見てゆく。最初の立方体は大理石。みるからに重厚な肌理である。隣は石膏。傷ひとつない表面が醸し出す清楚な雰囲気。次は透明な立方体。滑らかな表面はアクリル樹脂だろう。立方体の向こう側が波打ってみえる。その隣はブロンズがどっしりと艶っぽく輝く。
この店は紙の書籍を置かない。物質の書というか、様々な素材の立方体を売る。一見アート作品のようだが書物である。買った立方体を自宅などで読むのである。文字の言葉ではなく物質感、触感という言葉で読む。じっくりとも読めるし、ちらちらと飛ばし読みもできる。読み飽きたら古書店にも売る。読者は読解力を必要とするし、この店に来る者は立方体の愛読者である。
今日は硬質ゴムの立方体が気に入った。ゴムを読もう。
「これを下さい」
「いつもありがとうございます」
店主は木材の立方体の頭部で軽く会釈した。
その他
公開:20/06/08 07:08

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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