雨の日のシーン

5
5

帰るなりベランダに飛び出し、乱暴に洗濯物を取り込む。急な雨にやられるのは、もう何回目だろう。部屋に投げ込まれた服の山に、涙が溢れてきて止まらなくなる。

「傘を置いてきゃ雨が降り、傘を持ってきゃ晴れになる」

そうなんだ。天気はいつもあべこべで、いつもしっくり決まらない。みるみる力が抜けてって、まるで背骨がないみたい。

「雨の恵みに傘などいらぬ。過ぎる日照りにゃ傘欲しい」

今度の声はすっと染み込み、足の裏から抜けていく。吹き込む雨はそのままに、部屋には戻らず耳すます。

「雨に涙を隠したら、すべてを忘れて振り向くの」

素直に首をまわしてみると、ぼんやり見えるあの人が、ちょうど玄関しめたとこ。傘は立てかけたまま…。

「傘を持ってきゃ、やむんでしょ。だったら傘は置いてくわ」

だめ。あなたは私じゃないんだから、もう。
ファンタジー
公開:20/06/06 20:35

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容