天空のデザイン事務所

　栃木県の足利市に上月洋平（かみづきようへい）は来ていた。新しく出店するラーメン店の店舗デザインについての打ち合わせだ。建物は国道沿いの中古物件で商品はイタリア風のアレンジを施した味つけが売りだという。オーナーの要望をひと通り聞いて一週間の期間をもらい、上月は足利市を飛び立った。
　彼はキャンピングカーならぬキャンピング飛行船で生活をしている。駐車場の外灯に結んでいたロープを外してゴンドラに乗り込みエンジンをかけると、飛行船はプロペラの揚力で上昇を始める。明日の朝までには秋田県大仙市の次の現場に行かねばならない。
　飛行船は雲よりも高く上昇し偏西風に乗った。上月は窓の向こうに誰よりも早い日の出を見ることになるだろう。優れたデザインのアイデアが出てくるのはその時だ。そのため少し早めにワインを楽しみベッドに潜った。やがて彼は静かな浮遊感の中に魂が深く澄みわたるような眠りを得たのだった。