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いつものように美しい琵琶を奏でる芳一のもとを訪れた私は激怒した。
こ奴め、全身に経を書き込んでおるな?怨霊の私では芳一の姿を捉える事が出来ぬ。
だがその居場所は掴める。中空に耳が浮いている。どうやらここにだけ経を書き忘れたようだ。
私は声を上げ、芳一を脅した。こ奴は目が見えぬ。そのような者に刀を振るっても仕方がない。
しかし一向に返事を返さぬ芳一に痺れを切らした私は芳一の耳に刃を当てた。さあ!声を上げろ!
…これでも声を発さぬか。ならばその耳、切り落としてくれる。
…これでもなお、声を上げぬか。私の負けだ。
私は耳を持ち帰る事にした。これを琵琶の付喪神にでも憑け、模倣させるとしよう。
帰路につく前に私は懐から霊薬を取り出し、芳一の耳に塗っておいた。せめてもの償いだ。さらばだ、芳一。

平家の墓の前、芳一の耳のついた琵琶が音を奏でる。
指先ではなく空耳の演奏ではあったがその音色は美しかった。
ホラー
公開:20/06/05 18:54
”耳なし芳一”より怨霊視点

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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