なんらかの面接

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きっと面接なのだろう。
耳毛の女が向かいあう耳毛の男に質問をしている。
「免許はお持ちですか」
「一般的なものでしたら」
私は白い炎が噴射したようなふたりの耳毛が気になって仕方がない。
「鹿はどうです」
「鹿は経験がありません」
「牛は」
「乳牛なら少し」
「柑橘は」
「かぼすを」
「海藻は」
「もずくを」
「あんはどうです」
「オートマ限定でつぶあんを」
「それは心強い。結婚はされてますか」
「太ももとふくらはぎだけ」
「くるぶしはまだ?」
「来年には」
「お股も」
「はい?」
「お股も来年に」
「できれば」
「じゃあお子さんはそのときに」
私は文庫本を閉じてそのカフェを出た。
翌日もふたりは面接を続けていた。翌月も翌年も。私はその通りを歩くたびにガラス越しの観察を続けた。ふたりの耳毛は伸び続け、やがて店内を覆い、中を窺うことができなくなっても、なんらかの面接はまだ続いているようだった。
公開:20/06/05 17:17

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