ゴリラタクシー

　無人タクシーは、どうも不安で乗りたくない。おれは有人タクシーを利用することにしている。
　飲み会で終電を逃し、タクシーに乗った。
　運転手は、ゴリラだった。
　怖くて降りようとすると、
「お客さん、ご心配なく。私は運転しませんから」
「じゃあ、なんのために？」
「警備員なんです」
「警備員？」
「無人タクシーの盗難が多くてね。アルバイトで警備をしてるんです」
「なるほど。ゴリラなら怖くて盗めないよな」

　おれは、そのタクシーに乗った。ゴリラはいるが、無人タクシーの乗り心地は悪くなかった。それに何かあればゴリラが助けてくれる。という安心感もある。
「家族はいるの？」
「はい。妻と娘がいます」
「うちといっしょだ」
　そんな会話をするうちに、自宅に着いた。
「ありがとう」
「またご利用ください」
「一ついいかなぁ」
「なんでしょう？」
「背中にあるファスナー。見えないようにした方がいいな」