おもいでレコーダー

この酒場の売りは「思い出と一緒に酒を飲める」こと。
店に入るとヘルメット型の装置を渡される。それを被って年代や場所、人なら性別名前などデータを思い浮かべると、合致した記憶が脳内に再生サンプルとして表示される。その中からさらに思い出したい部分を選ぶと、それにまつわる記憶が、自分で忘れてしまっていた、どうしても思い出せなかった、そんなところまで再生されるのだ。多くの人は、初恋の相手や自身が部活で活躍したシーンなどを見たがる。そして一人「バっかだなぁ。もっとうまく言えないのかな、こいつ」とか「ここで決まってれば、勝てたのにナァ～、残念！」とか、「やったぁ！」と絶叫したり、うれし涙、悔し涙を流しながら一杯やるのだ。鮮明な記憶は装置に録画も可能だ。
「マスター。きょうもレイコちゃんに失恋しちまったよ！」
「へぇ。何度目だい」
「86回目！」
「あそ。100回になったら、おごるよ」
「お、サンキュ！」