食いしん坊万歳

0
2

 祖母は食いしん坊で、美味しいもの、珍しいものを食べるのが大好きだったが、最近は元気が無くなって来て、床に伏せることが多くなってきた。
「ああ、本当に美味しいものを食べたーっ、こんなものを食べたの初めてって満足して死にたいわ」
 その口癖がかつての冗談ではなく切実なものに聞こえてくる。
 だが、食い道楽を極めた祖母を満足させられるものはなかなか見つからない。
 いよいよ祖母が危なくなった時、弟が部屋に飛び込んできた。タッパーの中には、刺身のようなものが入っている。
「婆ちゃん、これ」
 わずかに開いた祖母の口に箸を使ってそれを押し込む。
 と。
「なにこれ、今まで食べたことのない、素敵な味!」
 祖母は元気よく跳ね起きた。
「珍しくて美味しいものを食べて、満足して死にたいわ」
 と言いつつ祖母は今日ももりもりとご飯を食べる。人魚の肉を食べた祖母の願いが叶う日が来るのか、ちょっと分からない。
その他
公開:20/06/03 07:17

海月漂( にほん )

思いつきを文章にするのが好きです。
怪奇からユーモアまで節操無く書いていきたいです。
少しでも楽しんでいただけますように。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容