空耳

葬儀関係の職業に就く者の中には私の様に幽霊が見える者がいる。
見えるからこそ、声が聞こえるからこそ、故人が最後にどう送られたいのか、その要望を叶える事が出来る。
時には遺族の方に怒られる事もある。しかし、故人の望みを出来る限り叶える事が私達の仕事なんだ。
私達は幽霊が見える等と決して口にしない。
幽霊が見えるなんて空目に決まっている。死者の声が聞こえるなんて空耳に決まっている。
罵られ、奇異の目を向けられ、こちらの言葉に耳を傾けて貰えなくなる。
だからこそ我々は告げない。その上で故人に敬意を払い、後顧の憂いなく旅立ってもらえるようお手伝いをする。
決して楽な仕事ではない。故人の話を聞き、やるせない気持ちになる事だってある。
すれ違う遺族との想いに、口出ししたくなる時もある。
だが、それは私達の仕事ではない。
その先の気づきは遺族の仕事である。私達はおくりびと。それ以上でもそれ以下でもない。