才能売り

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「才能、買いませんか」
 小汚いジョッキになみなみと注がれたエールを呷りつつ、ある男が言いました。
 町人たちが主な客層の酒場では、見慣れぬ男のまわりには自然と人が集まります。旅人から肴になる話を聞き出そうと目論むそんな喧騒は、不意に持ちかけられた商談によりふっと消え去りました。人々は訝しげに視線を交えます。
 中でも恰幅の良い男が代表して対面に腰掛けました。
「おもしれぇ。俺が買う。いくらだ」
 すると旅人はジョッキを高く掲げます。
「おかわりを頂ければ」
 恰幅の良い男は愉快そうに頬を緩め、小銭を丸テーブルに叩きつけました。
「商談成立ですね。あなたにはとっておきの才能を売りましょう。他人の才能をやっかむという才を。ああ。こんな口上に引っかかるんですから、これはすでにお持ちでしたかね?」
 一瞬の静寂。怒号。
 あるいはそんな喧嘩騒ぎも、場末の酒場にふさわしい光景なのかもしれません。
ファンタジー
公開:20/06/02 20:45

ぴろしき

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 @yosisige

上記アカウントにて駄文を垂れ流しているインターネットポエム揚げパン。
にほんご、すき。

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