早期退色

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「そんなに食べてないよ」麺の器を抱えて同僚が言う。違う。ソーキ大食じゃない。
「ふつう年長者対象だよね」頑張って入った会社だけど、強烈な人ほど早く辞めている気がする。褪色したような人だけ残るのだろうか。
「早期退色制度は今の色に染めるのではなく」モノトーンの壁の前で人事担当が説明する。「この先どんな色にも染められるよう、今の自分を脱色する制度です」
 色を失なった私たちに、制度の利用者の写真を見せながら続ける。「自分をデザインするのは、ご自身ですから」

「私は今の色のままでいいや」いい残して同僚は退職した。
 あの日見た写真。一様に白い背景に社員達の自画像。水墨画、印象派、クロッキー、パステル調。様々な色、様々な姿の、選択。

「ここは麺も色彩も強烈だよ」南の島からの便りに笑ってしまう。土産物屋で日にあたっていたであろう絵葉書は、少し退色していた。
青春
公開:20/06/01 06:29

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