けじめとして(「月の音色」投稿作品)

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「ごめんなさい。私、あなたを裏切ってた。」
結婚を切り出した時、俺は突然謝られた。
「ちょっと前まで、私…」
「今から!聞こえる言葉は空耳だ。いいね。」
強く言って遮る。
彼女ははっとして口を抑えた。
「知ってたよ。偶々外回りの時に、男と2人で歩いてるのを見た。」
サァッと血の気が引く音が聞こえた気がした。
「もちろん悩んださ。信じたくて、信じたくなくて、何ヶ月もずっと。」
「本当にごめ」
「もう一度言うけど、これは空耳だ。」
手で制しつつ俺は繰り返す。
「悩んで、悩んで、悩んだ。何がいけなかったのか、相手の何が良かったのか。」
じわりと溢れ出した雫を無視して続ける。
「それも無駄だと分かったんだ。」
絶望を張り付けて、彼女は顔を上げた。
「君を愛して、そして愛される男になればいいだけだ。だからもう考えない。」
そうして、俺が聴いたのは空耳だ、と、止め処なく流れる涙に向かって微笑んだ。
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公開:20/06/01 19:25

ハル・レグローブ( 福岡市 )

趣味で昔から物書きをのんびりやってます。
過去に書いたもの、新しく紡ぐ言葉、沢山の言の葉を残していければと思います。
音泉で配信されているインターネットラジオ「月の音色 」の大ファンです。

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