フルーツ牛乳

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「喉が渇いた」
「フルーツ牛乳しかないけど」
一年前に別れた夫と七年ぶりに寝た。同棲してた頃、アパートに風呂がなくて銭湯に通ってたことを思い出す。フルーツ牛乳とコーヒー牛乳なら、私は断然コーヒー牛乳派だ。
冷蔵庫を開けると、中はフルーツ牛乳で一杯だった。馬鹿じゃないのか。
「明治の瓶入りは去年販売終了しちゃってさ」
元夫はひどく悲しそうな顔をした。
「中身は同じでも、ペットボトルだとなんか味が違う気がするんだよね」
フルーツ牛乳は、小さい頃飲まされた風邪薬のシロップに似た嘘くさい味がしてあまり好きじゃなかった。一本貰って一気に飲み干す。喉が乾いてれば何だって美味しい、気がする。
「やっぱ嘘くさいわ」
「は? 俺が?」
元夫が少し傷付いたような怒ったような顔をして、上目遣いでこちらを見る。思い出した。なんで好きになったのか、なんで嫌になったのか。
甘ったるい息が鼻先を掠めて頭がクラクラした。
その他
公開:20/06/01 14:12

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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