恋なんかじゃない。

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あのひとが好きだといったから、その歌はきらいになった。
あのひとが好きだといったから、その絵をきらいになった。
あのひとが好きだといったから、その町をきらいになった。

くじらも、カピバラも、ペンギンもきらいだ。
雲も、星も、虹もきらいだ。

きのぬけたソーダ水も、
脱ぎ捨てられたサンダルも、
夏の日の影も、その縁を歩く小さな足も、
遠くで聞こえるチャイムの音も、
指の先のてんとう虫も、

世界はあのひとがすきなもので満ちている。

だから、こわした。
何重にも濃色をしきつめ、腐臭をはなてば原子の粒になるまですりつぶした。

なんてことはしない。

ただ、消しただけ。あのひとを。
消えたとき、きゅいと小さく鳴いた。
スカートをひるがえして。

紅をひいてでかけよう。すべては闇の底。
恋愛
公開:20/05/31 01:02
更新:20/05/31 01:08

kei

再開しました。今までコメントをしてくださった方々、お返事できず失礼しました。
これからもよろしくお願いします。

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