忘れの先

22
11

『都忘れが咲きました。』
一筆箋に書いて、それきり後が続かなくてペンを置いて。
封筒は切らしたままで、出せもしないのに、なんで書いてしまったんだろうと自分に笑って。

『忘れて下さい』と貴方が言ったから、意地になって憶えている。
――どうして忘れさせてくれないの?
勝手にしがみ付いて、なじる僕は馬鹿なんでしょうね。
薄紫の料紙に、点々と散った小花も都忘れで。そうだ貴方が置いて行った、また思い出して独りで沈んで、変に気持ち悦いから始末に負えない。

都忘れの『忘れ』は、忘れるのか、忘れないのか。
答えは知っているけど。貴方も知っての通り、僕はひねくれ者なんです。
――どうして『忘れて』なんて言ったの?
その答えも知っているけど。


『都忘れが咲きました。
だから、今日を限りに貴方を忘れます。』

同じ柄の封筒を探しに行かないと。
答えは知っているから。あとは僕が、意地を張るのをやめるだけ。
青春
公開:20/05/30 23:59
都忘れ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容