天国カメラ

「ずいぶんの骨とう品だね」デジカメを見た部長が、そう言って
からかってきた。
「娘が生まれた時に買ったので、20年になります」
確かにスマホのカメラの方がきれいに撮れる。娘の成人式までは、妻が残してくれたこのカメラで撮りたいと思って大切に使っているのだ。

娘の生まれた時、妻はまだ高額だったこのカメラを買って、家族の幸せを１つ１つ大切に残してきた。
だが、娘がまだ小1の時、カメラの主は、私たちを残して天国へ旅立った。

入学式、運動会、修学旅行、卒業式・・・　娘の成長を記録するときは、必ずこのカメラで写真を撮った。「ずいぶん背がのびたな　ママ見たらびっくりするだろうな」
まだ幼かった娘は、ママのカメラで撮った写真は天国でママが見ていると信じて、つらい時でも必ず笑顔でカメラの前に立った。
「パパ、レンズに水滴ついてる！ちゃんと拭いてね」晴れ着姿の娘は
はしゃいでポーズをとった。