4
5

 彼は昔、貘という者と契約をした。

「あなた様のお噂はかねがね聞いております。なんでも、悪夢や欲や非を食べて消してくださるとか。どうか私の身体を中から蝕んでいるこの悪も食べてはいただけないだろうか」

「お望み通り、あなたから悪を祓って差し上げましょう。ただしあなたの記憶と引き換えとさせていただきます。それでもと言うのであれば、私の前へおいでなさい」

 記憶が無くなるとどうなるのか?
 少し不安は感じたものの、彼の気持ちは揺るがない。
 貘の噂をする者は、口を揃えて褒め称える。貘についての悪い噂は、未だ聞いたことがない。

 彼は貘の正面へと歩みを進め、膝をつき頭を垂れる。

 貘が記憶を食べ尽くしたとき、彼は彼ではなくなった。


……



「あなた様のお噂は、かねがね聞いております。」

 今日も悩める若者が、貘のもとへとまた一人。
 今日も悩める若者が、彼のもとへとまた一人。
ホラー
公開:20/05/29 19:40
記憶 選択

久寓

(玖寓→久寓に変えました)

読むのが好きです。
書くのは好きだけど苦手です。

作品を読んでいただきありがとうございます。コメント等大変励みになっております。

1週間に1作品投稿を目標にしています。
(現在体調不良のため休み中)

▼Twitter
https://twitter.com/kuguu_

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容