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 彼は昔、貘という者と契約をした。

「あなた様のお噂はかねがね聞いております。なんでも、悪夢や欲や非を食べて消してくださるとか。どうか私の身体を中から蝕んでいるこの悪も食べてはいただけないだろうか」

「お望み通り、あなたから悪を祓って差し上げましょう。ただしあなたの記憶と引き換えとさせていただきます。それでもと言うのであれば、私の前へおいでなさい」

 記憶が無くなるとどうなるのか?
 少し不安は感じたものの、彼の気持ちは揺るがない。
 貘の噂をする者は、口を揃えて褒め称える。貘についての悪い噂は、未だ聞いたことがない。

 彼は貘の正面へと歩みを進め、膝をつき頭を垂れる。

 貘が記憶を食べ尽くしたとき、彼は彼ではなくなった。


……



「あなた様のお噂は、かねがね聞いております。」

 今日も悩める若者が、貘のもとへとまた一人。
 今日も悩める若者が、彼のもとへとまた一人。
ホラー
公開:20/05/29 19:40
記憶 選択

久寓

(玖寓→久寓に変えました)

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