雪のひと

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彼女が来て三か月。彼女はもう帰れないだろう。今更雪は降りそうもない。
不安そうに部屋の陰から窓を眺める彼女は色彩の薄い部屋でも真っ白に映えていた。
「空に帰れなくなったの。急に暖かいんだもの。」
そう言って彼女がいきなり僕の家に来た日のことをふと思い出した。
僕はなんだか彼女が気の毒にも思えたがもうこのままずっといればいいと思った。
あの長い髪に、透き通った肌に触れたいといつの間にか思うようになっていた。だけど、そう思うたびに彼女の言葉が僕の手の先にとまる。
「一つお願いがあるの。私には触れないでほしい。たとえ雨でもあたれば何本もの針に突き刺されるような激痛を感じるの。」
彼女はふっと振り返り、冷たく澄んだ香りが舞った。
僕は手を伸ばしかけた。
「もう帰れないわ。」彼女は寂しく微笑むと自らの涙で溶けてしまった。僕の視線に僕の右手だけが残った。窓の外で桜の花びらが雪みたいに降っている。
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公開:20/05/29 18:45

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