思い出飼育員

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ざっ、ざっ。箒の音が、静まり返った園内に響く。開園前のひととき。
「ふぅ、だいぶ埃が落ちたかな」
檻の向こう側で眠る動物たちを、飼育員は愛おしそうに眺めた。
「さて、次はあっちか」
飼育員は檻から檻へと移動する。そして、積もった埃を丁寧に払っていく。
鳴き声がして、飼育員は振り返った。
「おや、起きたかい?今日は早いねぇ」
ぐるる、とすり寄ってきたのはライオンだ。甘えるように飼育員に鼻先を擦り寄せる。
「ははっ、早起きも無理はないさ。今日はお前の出番だもんな」
やがて空が明るくなる。飼育員は眩しそうに空を見つめた。
「小学校の遠足以来だね。さあ行っておいで」

私はふあ、とあくびをする。今日は動物園に行くんだった。ライオンを見たのは小学生の時が最後だったなぁ、と私は思い出に浸る。あのライオンにまた会えるのかな。わくわくしながら階段を降りる。

私のお腹がライオンみたいに、ぐるる、と鳴った。
公開:20/05/30 12:15
スクー みんなで脳内旅行

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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