美味しい雲

6
5

もくもくと空に伸び上がる雲に口を近づける。
さくり。軽快な音を出して千切り、ごくりと飲み込んだ。
「…美味しくない」
見た目の白さに騙された。ジャリジャリとした食感が残って気持ち悪い。
「ねえ兄ちゃん。もっと美味しい雲が食べたいよ」
「…そうだなぁ」
隣で食べていた兄が答えた。考えるようにしてから、ぽつりぽつりと話し出す。
「北の雲はひんやりしててパサパサしてるし…南の雲はホカホカしててしっとりしてるんだ」
「美味しいの?」
「美味しくないよ。多分、一番美味しい雲はずっと西の方にある」
「西? どうして?」
「雲が流れてくるのは西からだろ。だから、そっちの方に雲の出来上がる場所があるんだよ」
「できたてホヤホヤの雲!」
聞いた瞬間、全身がウズウズした。ふわふわしていて、絶対甘いに違いない。
「今から食べに行こうよっ」
「そうだな。食べに行こう」

僕たちは、西の空に向かって羽ばたいた。
ファンタジー
公開:20/05/30 07:37
更新:20/05/30 08:14

早見並並( 神奈川県 )

物語創作に興味があります。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容