河童池

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その池は、河童池と呼ばれていた。
昼でも薄暗く、葦が鬱蒼と生い茂る湿地帯に、その池はあった。
その名の通り河童が棲んでいて、江戸時代後期の天保年間から、昭和の初期まで、河童の目撃情報は枚挙にいとまがない。
近くに住む、大塚太助は、昭和5年の茹だるような暑さの夏の日に、河童に助けられたと言う、信じ難い体験をした。
その日は半ドンで、昼過ぎから大好きな酒を呑み始めた太助は、何を思ったか、夕刻に「河童狩り」と洒落込んだ。
呑み過ぎた太助は、池のほとりで足を滑らせドボン。深くはないのだが、池の底に足がはまって、もがけばもがくほど、ブクブク底に沈んでいった。「ダメだ、死ぬ!」
そこへ、人間の子供の背格好ほどの河童が現れ、もの凄い力で太助の足を抜き、活発に太助を岸まで運んでくれたのだ。
河童狩りに行ったのに、逆に河童に、命の恩の借りを作って、助けられた太助。
その池は、河童池と呼ばれていた。
その他
公開:20/05/30 03:20
更新:20/05/30 03:33
河童池は過去に実在した池 昭和46年に埋め立てられる

渡辺 隆一( 千葉県野田市 )

千葉県野田市在住の、渡辺隆一です。
小学4年生の頃から、文章を書くのが
好きで、今も、趣味で書いています。
ショートショートが、好きです。

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