ぷるぷる

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「夏の太陽を浴びたいから」
外出自粛の日々が明ければ出てゆくと彼は言った。
去年の秋に美術館で買ったオブジェの彼には魂が宿っていた。
太陽を掴もうと手を伸ばす彼の腕が私は大好きで、いつもその腕を抱いて眠った。眠れぬ夜にはいろんな話をした。絵画のこと。沖縄のこと。縄文のこと。
彼の腕はあたたかくて、頬ずりすると甘い樹液が滲んだ。
自粛中、一度だけ私を抱いた寝室で彼は毎日窓の外ばかり見ていた。彼の腕から新芽が出ると、別れの不安に襲われて、私は彼の腕を折った。
「行かないで」
その夜、ベランダには客待ちのタクシーが一台停まっていて、腕のない彼を乗せて空に消えた。
私は眠り、雨音に目が覚めて、梅雨入りした街を美術館へと向かう。彼を捜したけれど、そんなオブジェは扱っていないと学芸員は言う。
私はベランダの棺のようなプランターに横たわり、雨に打たれて太陽を待った。
新芽の疼きは腹筋のぷるぷるに似てる。
公開:20/05/28 16:21

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