気まぐれエスカレータ

流れが少しも動かない雑踏。エスカレータが四本の上り口を前に何十人あるいは百数十人が並んでいた。ようやく人に押されて順番が来るとエスカレータに足をかける。上を見ると煌々と光の天井が急な傾斜で近寄る。それぞれ二列に立った人で埋まった四本のエスカレータがゆるゆると上ってゆく。ほとんど帰宅途上の通勤客だ。
四本のエスカレータはどこまでも上がる。前方がいつもより長い。通勤客たちは少しざわついたがすぐに納得したように沈黙に落ち着いた。
このエスカレータはときどき長さが変わるので知られている。普段はビルの五階に着くが、時には二階までとか、あるいは伸びて十階まで人を運ぶ。先日などはビルの最上階までにゅうっと伸びてニュースになった。原因は今もわからない。
今夜もどうやら伸びるみたいだ。下を振り向くと人で埋まっている。このまま立っているしかない。どこまで伸びるのかわからない。気まぐれエスカレータである。