太陽の髪の毛

4
7

意識が一瞬で戻る。みるみるうちに夢で過ごした時間は失われる。夢は忘れたけど、良い寝覚めでないことは確かだ。

目を開けると知らない女が僕を見ていた。さらにぎょっとしたのは彼女の長い髪が金色に光っていたことだ。童顔だがパッチリした金の睫毛。遠慮がちに観察してるうち、彼女は『おはよう』と言った。

不思議と恐怖心はない。が、スルーできる訳でもない。「なに、お前」僕が絞り出した声に、彼女はニコッとした。『夢の中のあなたが泣いてて、心配で来ちゃった』「夢?覚えてないけど…」しかし変だな。何故か涙が次々と頬を伝う。『夢では私、あなたの恋人なの』言いながら彼女は髪で僕の涙を掬った。髪が触れたところから体が温まり、何かが溶かされていく。「もう大丈夫。夢で待ってるね」太陽のように笑った彼女はそのまま姿を消した。

涙はもう止まっている。途端に彼女の顔すら思い出せなくなった僕は、いつも通り朝の支度を始めた。
公開:20/05/28 21:34
更新:20/05/29 08:55

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容