惚れるより惚れられる女になりたい

社会人になって最初に惚れたのは、寡黙で素朴。女とはてんで無縁の真面目な男。そんな彼が好きだと言った椎名林檎の「電波通信」（2010年）。荒々しく始まるギターフレーム。虚を突かれた。一体、お前は誰だ？

「最低限であれ」、「効率的であれ」。どいつもこいつも、やかましい。君が教えてくれた曲はあまりに乱暴だった。朝の通勤電車で聴きながら、それはまるで無理矢理に抱かれているいる錯覚。そこに愛はなく、ただ苦しくて堪らない。

君が私に惚れて、堕ちるまで。気長に待つつもりがこの様だ。君からの言葉が、態度が、温度が、今すぐ欲しい。私は善い女で居たかった。恋する可愛い私で居たかったのに。

２人きりになった22時の中央線。途中下車したのは私だけ。嫌だね。こんな時に限ってこの乱暴な曲が焦燥感によく沁みる。

並んで歩いた。手を繋いで一度だけ。ただ君が欲しい。それだけだよ。第２ラウンドの鐘が鳴った。