独奏ロール

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職場の学校の近くに、ロールケーキ屋「独奏ロール」がある。
「ピアノ・ソロを奏でていると、レシピが浮かぶんだ」

店主はそう言った。

「どうして一種類しか売らないんんですか?」
「悲しいソロを弾いちゃうと、人の心も風邪引いちゃうんでね」

それで、最上級のソロを奏でた今のレシピしか売らなくなったのだという。

「今のは最高だ。食べた人には、あのソロが流れる。
 春風のように、その人をウキウキさせるんだ」

先週から店主が入院した。僕はお見舞いに行き、新しいレシピで焼いて欲しいと頼んだ。

「今作ったら、人の心を闇に落とすよ」
「それがいいんです」

店主は渋々、病院のホールでピアノを弾いた。

「これでは毒草ロールだな」

奥様が焼いた毒草ロールを、非行に走った生徒に食べさせた。
予想通り、彼はバッドトリップし、シンナーをやめた。

「先生。あんた、最高だな!」

店主の回復も近そうだ。
その他
公開:20/05/27 12:50
更新:20/05/27 12:55

Aymie

モノ書き・ストーリーテラー。

朗読イベント「オトネリ会」主催。

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