紙の船団

4
6

休日の昼下がり、河川敷に男を見た。立ったまま忙しく手を動かし紙を折っている。足元に積まれた紙束が次々と折り紙の船となる。虚ろな目は手元を見ておらず、何処か遠くに投げ出されているようだった。

どうにも気味が悪い。しっかり糊の利いたシャツの襟元から覗く男の首。刺青にしては随分と粗末な模様。土塊のような顔色はまるで死人のようだった。
だが男の鬼気迫る顔つき、そして次々生み出される船の姿には言い表せぬ程の力強さが宿る。壮麗たる紙の船団、その指揮官に私は思わず声を掛けた。

「いやあ、見事なものですね」

男はゆっくりこちらを振り返り、そうですか、とひとこと言うと再び紙を折り始めた。紙船には何やらびっしりと文字が書かれていた。好や愛、その言葉を見るに恋文だろうか?

「僕は作家になるのを諦めたんです。彼女の心の機微さえ読み解けぬ男の恋愛小説など……」

干上がった川の上で、数多の船が座礁していた。
その他
公開:20/05/28 01:06

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容