カニバルのジレンマ

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 手には表面のゴムが干からびたバスケットボール。少し離れた街角で佇む男の子に話かけたかった。ただ一言、バスケしようと。
 一歩踏み出した途端に、お腹が鳴り出した。そういえば、長く続いた日照りのせいで何も食べていない。植物も、動物も死に絶えてしまった。人間が食いつくしてしまったからだ。もう食べ物は何処にもない。
 鼻先をとある匂いが掠めた。長い空腹で体の感覚はどんどん尖っていく。足を踏み出すごとに匂いは強くなる。自然と息を潜めた。
 おかしいな、と思う。一緒に遊ぼうと声を掛けるだけなのに。もう男の子の背中は目の前だ。まだこちらの存在には気付いていない。
 あぁ、思い出した。これは食べ物の匂いだ。動物の、血の匂いだ。
 気付いたらお腹は満たされていた。バスケのことを思い出して、手に持ったボールをみた。ボールにしては重たくて、固くて、変な凹凸が多い。
 これじゃバスケはできないな。
ホラー
公開:20/05/27 22:26

直見逸

なおみ いつる、です。
ツイッターでは「瀬々幾」と名乗っています。
一日一本を目安に書いていきます。普段は長編とか色々書いています。

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