ききちがい

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三年ぶりに会った母さんは、しわが増え、声がかすれていた。
そして何でもない事のように「私は、……がんなのよ」という。
冷水を浴びせられた心地になり、
「……何かほしいものはないかい?」と震える声で聞いた。
「ほしいもの? 特にないけれどバラが欲しいわ」
「分かった」俺は静かに頷いた。

俺はその日暮らし。
朝から晩まで木材を運び、バラを買いに行く時間も金もない。
『バラ……バラ…』呟きながら配給の弁当をみると、弁当の中にバランがはさまっていた。
これだ! 俺は一週間弁当のバランを集め、小さな緑色のバラの花を作った。

早速母さんに手作りのバラの花を持って行った。
母さんは目をすがめてそれを見ながら、「なんだいこれは?」と問う。
「バラだよ、母さん。俺がバランで作ったんだ」
母さんはかすれた声でこう言った。
「んー。よく見えないね。先週言ったけれど、私は、『ろうがん』なのよ」
その他
公開:20/05/27 20:48
更新:20/05/28 10:39

牧原加奈( 大阪府 )

牧原加奈です。
よろしくお願いします。

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